プロペラ機LCCの計画ラッシュ~今の計画路線は?

航空
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新型コロナウイルス感染拡大により、格安航空会社(LCC)各社は大きな影響を受けています。そんな中でも、各社の経営努力によりネットワーク縮小が最小限に抑えられていることは、この前の記事でまとめました。

決してコロナ禍が完全に収束した状況ではありません。しかし、来るアフターコロナに向け、地方に注目したプロペラ機によるLCCの新規計画発表が立て続けにありました。
そこで、現在の新規LCC計画をまとめると共に、各社にて計画される就航路線を地図にまとめてみました。

2022年8月現在のプロペラ機LCC就航路線予定図

2022年8月現在、報道されているプロペラ機LCCは、合計3社あります。まずは各社の計画している就航路線を地図にまとめました。各社の詳細については後でまとめることとします。

図:プロペラ機LCC就航路線予定図

2022年8月現在のプロペラ機LCC計画3社

トキエア TOKI AIR

(2022年10月5日追記)
本日付で、トキエアについての記事を投稿しました。2022年9月以降の最新情報は、以下の記事をご覧くださいませ。

就航まで最も近い位置にいるのがトキエアです。2020年7月に法人登記され、2021年2月に新潟市に本社を移しています。拠点は新潟空港です。また、使用機材はATR72-600型機2機(就航開始時)を予定しています。その後は佐渡空港の短い滑走路に対応するATR42-600S型機を追加で導入する予定です。しかし、ATR42-600S型機は設計が遅れており、すでに飛行しているATR42-600型機を一時的に導入することも考えているようです。
トキエアにて計画されている路線は以下の通りです。表に載る路線の通り、新潟県や佐渡に特化しており、新潟に密着した航空会社であることが明確です。

路線就航時期出典
新潟札幌-丘珠2022年TOKI AIR HP
新潟仙台2022年同上
新潟中京圏2022年度同上
新潟関西圏2022年度同上
新潟佐渡2023年以降同上
佐渡関東圏2023年以降新潟日報
表:トキエアの想定就航路線

トキエアは、就航に必要な航空運送事業許可(AOC)を得るための申請が最終段階であると報じられています(2022年7月19日:日本経済新聞)。AOCを得るためには安全に飛行機を運航するための体制構築が求められます。これには人材確保、飛行機などの資産、安全推進室をはじめとした会社組織、体系的な規程整備、安定運営のための資本なども含まれます。つまり、AOCの取得により、運航開始の最終段階に入るということです。

しかし、AOC取得=運航開始確定ではありません。過去の航空会社設立では、各社が就航開始までの幾度となく計画変更・延期となっているのです。
2014年に就航を果たした春秋航空日本(現:SPRING JAPAN)は、2014年6月27日の就航予定を「運航体制が整わず、期限までに国土交通省の認可を得られないと判断」した為、2014年8月1日の就航に延期しています(2014年6月6日:日本経済新聞)。2017年に就航を果たした2代目のエアアジア・ジャパンはAOC取得後、就航の無期限延期を発表しています(2017年1月30日:日本経済新聞)。結果的に、AOC取得から2017年の就航までに2年を要しています。
AOC取得時には既に飛行機の安全な運航体制が構築され、訓練飛行等の一時的な飛行に対する安全は国に認められています。しかし、毎日複数便を安全かつ安定して運航する体制は、就航路線の運航許可までに別途整えなければならないのです。

トキエアの現状は、資金については「資金調達については、大口は新潟県内の企業の皆様からいただいており、就航の実現性が高まってきました」(2022年3月16日:トラベルビジョン)とのことから、順調と見ていいでしょう。人材確保についても「機長、副操縦士とも就航時に搭乗するメンバーは確保しています。整備士も現在募集しているところ」(2022年3月16日:トラベルビジョン)とのことから、一定程度進んでいるものと思われます。しかしながら、より安定した運航のために、国土交通省より機長職の更なる確保を求められる可能性もあり、この発言を鵜吞みにはできません。
会社組織や規程については、特に報道はなされていませんが、規程に矛盾がないか、トラブル時に対応できる組織かなどを国土交通省より厳しくチェックされます。JAL傘下のジップエアが短期間で就航していることから、JALANAの傘下にないトキエアは、より厳しくチェックされているものと考えれます。

今後は、就航前の訓練飛行などにおいて、より安全かつ安定して運航するために修正すべき事項が多く生じます。これらに適切に対応できるかも重要です。いずれにしても、就航までに一番近い立ち位置であることに変わりはありません。ひとつひとつ、着実に課題をクリアし、少しでも早い時期に安全かつ安定した会社として就航を迎えることを願って止みません。

ジェイ・キャス J・CAS

トキエアと同時期に世に報道されたのがジェイ・キャスです。設立は2018年10月とトキエアより早いジェイ・キャス、拠点は関西空港、その後富山空港の拠点化を目指しています。想定機材はATR72-600型機です。
コロナ禍に影響され就航準備がほぼ進んでいなかったジェイ・キャスですが、2021年10月にはホームページが一新、さらに2022年7月には石川県志賀町に北陸準備室を設置(2022年7月21日:北陸中日新聞)するなど、徐々に就航へ向け本腰を入れているようです。
現在までに報道されている就航路線は以下の通りです。北陸準備室など北陸や富山を地盤にしようとしているジェイ・キャスですが、まずは米子・石見など関西から採算の合うと見込まれる路線を同時並行させるようです。やはり富山・能登だけでは初期の安定利益には難があるということでしょう。その後徐々に富山に路線を広げ、北陸を中心とした航空会社を目指すようです。

路線就航時期出典
大阪-関西富山2024年秋ジェイ・キャスHP
Sky Budget
大阪-関西能登2024年秋同上
大阪-関西米子2024年秋同上
大阪-関西石見2024年秋同上
富山名古屋-中部2025年中日新聞
富山福岡2025年同上
富山新潟2022年※ジェイ・キャスHP(2019年記事ページ、NHK)
富山仙台2022年※同上
大阪-関西岩国2021年※Aviation Wire
表:ジェイ・キャスの想定就航路線
※印:コロナ禍前に公表・報道されたもので現在は不明

ジェイ・キャスの現状ですが、個別の事業説明会などを開催するなど、30億円と見積もられる資金確保を進めていますが、資金確保についての報道はありません。就航までは未だ長い道のりと思われますが、次の朗報を待ちましょう。

フィールエア Feel Air

(2022年10月1日追記)
本日付で、フィールエアについての記事を投稿しました。2022年9月以降の最新情報は、以下の記事をご覧くださいませ。

フィールエアは2022年7月に突如報道された航空会社です。”フィールエアホールディングス株式会社”という商号による設立は2022年7月です。
これまで2社と異なるのは、フランチャイズ方式を謳っていることです。例えば、
 フランチャイザー:セブンイレブン
 フランチャイジー:個人or法人の店舗運営者
というように、
 フランチャイザー:フィールエアHLDGS
 フランチャイジー:フィールエアEAST
という形で、フィールエアホールディングスの下に全国に5つの航空会社を設立する構想です。
使用機材はATR72-600型機、ATR42-600型機、ATR42-600S型機のいずれかで、2022年7月に最大36機導入の取引意向書(LoI)をATR社と締結しています(2022年7月19日:Aviation Wire)。

フランチャイジーとして最初に設立するのがフィールエアEASTです。フィールエアEASTは東京-成田空港をハブ(拠点空港)、その後花巻・小松両空港をミニハブ(焦点空港)にするとのことです。次いで設立するのがフィールエアWESTです。フィールエアWESTは鳥取・米子・大阪-神戸の各空港を拠点空港とします(2022年7月29日:日本経済新聞)。
その後、2027年春に中部圏を拠点とするフィールエアCENTRAL、2028年春に北海道・東北圏を拠点とするフィールエアNORTH、同じく2028年春に九州圏を拠点とするフィールエアSOUTHを順次設立、就航させる計画です(2022年7月20日:NHK NEWS WEB)。尚、フィールエアのホームページに掲載されている地図では、中部圏拠点の会社についての描写は無く、北海道と東北にそれぞれ拠点を設けるように読み取れます。EASTでミニハブ(焦点空港)にする花巻空港をNORTHに、小松空港をCENTRALに分社化するでしょうか? いずれにしても計画は荒い状態であろうと考えられます。

現在計画されている就航路線は以下の通りです。

会社路線就航時期出典
EAST東京-成田花巻2024年4月NHK NEWS WEB
共同通信社
EAST東京-成田小松2024年4月同上
EAST東京-成田秋田2024年春~NHK NEWS WEB
Sky Budget
EAST東京-成田庄内2024年春~同上
EAST東京-成田富山2024年春~同上
EAST東京-成田松本2024年春~同上
EAST東京-成田名古屋-中部2024年春~同上
EAST東京-成田南紀白浜2024年春~同上
EAST東京-成田徳島2024年春~同上
EAST花巻札幌-丘珠2024年春~同上
EAST花巻庄内2024年春~同上
EAST小松仙台2024年春~同上
EAST小松広島2024年春~同上
EAST・WEST東京-成田大阪-神戸2024年春~※同上
EAST・WEST東京-成田但馬2024年春~※同上
EAST・WEST東京-成田鳥取2024年春~※同上
EAST・WEST東京-成田米子2024年春~※同上
EAST・WEST小松大阪-神戸2024年春~※同上
WEST大阪-神戸富山2026年春~同上
WEST大阪-神戸但馬2026年春~同上
WEST大阪-神戸鳥取2026年春~同上
WEST大阪-神戸米子2026年春~同上
WEST大阪-神戸松山2026年春~同上
WEST大阪-神戸熊本2026年春~同上
WEST大阪-神戸大分2026年春~同上
WEST大阪-神戸宮崎2026年春~同上
WEST鳥取広島2026年春~同上
WEST鳥取北九州2026年春~同上
WEST米子北九州2026年春~同上
CENTRAL中部圏不明2027年春~同上
NORTH北海道圏不明2028年春~同上
NORTH東北圏不明2028年春~同上
WEST九州圏不明2028年春~同上
表:フィールエアの想定就航路線
※印:NHK映像ではWEST路線、
   音声ではEAST成田就航12路線に含む可能性
             (合計13路線となる)

フィールエアの現状ですが、まだ会社設立初期の段階であり、どのように資金確保するかなどが見えてきません。会長である児嶋太一氏が社長を務める鳥取ガスが出資していないこともあり、まだ大口の出資はないと思われます。
私見になりますが、設立関係者に航空関係者が報じられていないことが気になります。前述の通り、国土交通省のAOCや路線就航認可には厳しい審査があります。これらに対応するには、過去に審査に対応した経験は必須です。人材という意味では、パイロットの確保にも不安があります。ただでさえパイロット不足が指摘され、今後引退するパイロットが増えるタイミングで、これだけの路線網を維持するだけのパイロットを確保することは出来るのでしょうか。資金確保についても、ある程度運航開始できる見通しが出てこない限り、出資者は増えないでしょう。
全体として情勢が見えない状況ですが、ただの大風呂敷で終わらないことを祈ります。

まとめ~何社生き残り、何路線就航できるか

プロペラ機のLCCはかつて、福岡県に本社を置き、北九州空港や福岡空港への就航を目指したリンク(2012年設立)や秋田県本社を置き、秋田空港や庄内空港への就航を目指したエア・リージョナル・ジャパン(2016年設立)、鹿児島県徳之島に本社を置いたエア奄美(2016年設立)がありました。ですが、いずれも資金確保が出来ずに会社清算となりました。
2022年になり、3社が準備を進めており、ついにトキエアがAOC取得の一歩手前まで辿り着きました。何とか就航に漕ぎ付け、プロペラ機のLCCという新しい分野を開拓して欲しいと切に願います。一方、ジェイ・キャスフィールエアはまだまだ準備の初期であり、就航に至るハードルは極めて高い状態です。過去の例からしても、両社ともが就航するという未来は高望みというものでしょう。
いつ計画が頓挫してもおかしくはない航空会社の立ち上げ、それに挑もうとする3社に敬意を表すると共に、近い時期に、いずれかの会社から、計画が前進したという知らせが届くことを楽しみにしています。

お読みいただきありがとうございました!

更新履歴

2022年10月1日:フィールエア新記事掲載に伴い、案内文追記(リンク
2022年10月5日:トキエア新記事掲載に伴い、案内文追記(リンク