トキエアは予定通りに飛び立つか?~AOC取得後に費やす日数とハードルを改めて考える

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トキエアは2023年3月31日、国土交通省東京航空局より航空運送事業の許可(AOC)を取得したと発表しました(TOKIAIRプレスリリース)。これにより、トキエアは就航に向けた最後のステップにまで到達したこととなります。いよいよ新規航空会社が日本の空を飛ぶことにワクワクしている方も多いと思います。実際、札幌に住む私の自宅からも、丘珠へ向かうトキエアの飛行機を見ることが出来ました。新潟へ旅行したいという気持ちも幾分高まったように感じます。

一方、以前このブログでも指摘したように、AOC取得=運航開始確定ではありません。AOC取得後には訓練飛行や路線就航に係る各種認可、施設検査などが待っています。実際にAOC取得のその日(3/31)から訓練飛行が開始されています。

この記事では、このようなAOC取得後の様々なハードルや過去の事例について触れつつ、トキエアが無事に飛び立てるのかを改めて考えてみます。すると、過去就航を果たした航空会社の就航までの苦しみ、クリアしなければならない課題などが改めて見えてきました。

AOC取得後に必要となること

まず、AOC取得後に必要な手続きについて主なものをまとめます。

項目項目の一例根拠法令
運航管理施設等の検査・航空機の運航管理の施設
・航空機の整備の施設
・従業員の訓練の施設
航空法第102条
航空法施行規則第211~212条
安全管理規程の届け出・安全な事業運営
・安全な事業の為の管理体制
・安全な事業の為の管理方法
・安全統括管理者の選任方法
航空法第103条の2
運航規程の認可・運航管理の実施方法
・運航乗務員・客室乗務員の職務内容や編成、乗務割
・運航管理者の業務時間制限
・運航乗務員・客室乗務員・運航管理者の技能審査及び訓練の方法
・運航乗務員に対する運航に必要な経験及び知識の付与の方法
・離着陸可能な最低気象状態
・最低安全飛行高度
・緊急の場合においてとるべき措置等
・航空機の運用の方法及び限界
・航空機の操作及び点検の方法
・装備品等が正常でない場合における航空機の運用許容基準
・航空保安施設及び無線通信施設の状況並びに位置通報等の方法
・地上取扱業務の実施方法
・地上取扱業務従事者の訓練方法
・航空機運航に係る業務委託方法
航空法第104条
航空法施行規則第213条
整備規程の認可・整備従事者の職務や訓練方法
・整備基地の配置並びに整備基地の設備及び器具
・機体及び装備品等の整備方式や整備実施方法
・装備品等の限界使用時間
・整備記録の作成及び保管方法
・装備品等が正常でない場合における航空機の運用許容基準
・航空機整備業務の委託方法
航空法第104条
航空法施行規則第213条
運賃や料金の届け出運賃や料金の
・種別
・金額
・適用期間
・区間
・その他の条件
航空法第105条
航空法施行規則第215条
運送約款の認可・運賃及び料金の収受及び払戻しに関する事項
・搭乗切符に関する事項
・貨物の種類及び範囲
・貨物の受取、引渡し及び保管に関する事項
・損害賠償その他責任に関する事項
・その他運送約款の内容として必要な事項
航空法第106条
航空法施行規則第217~218条
運航計画の届け出路線ごとに
・使用空港
・運航回数
・発着日時
・使用航空機の型式
航空法第107条の2
航空法施行規則第219条
混雑空港使用の許可トキエアは対象外航空法第107条の3
航空法施行規則第219条の2
表:運航開始までに必要な検査、認可、届け出の一例
※法律の条文を一部簡略化したり言い換えたりしています

航空法また航空法施行規則では、上記の内容等が詳細に規定されており、これらを全て安全運航に充分な状態で揃えなければなりません。さらに、これらは規程を作ればよいものではありません。策定した規程を基に訓練などを行い、訓練の経過を審査されるなど、実際の運航も評価されるのです。上記の表では項目が雑多なので(これでも法に記載の一部ですが)、運航に関わる部分のみさらに簡単に、一例として以下のようなことが必要となります。

どの区間に何便飛ばすのかの運航計画

運航に関わる職員についての定め
→決めた運航内容に対しての必要人数
→安全に勤務出来る上限
→訓練方法
→日常業務
→緊急事態での対応 など

飛行機や施設、物品等についての定め
→点検等について
→物品等の管理 など

施設や物品等が全て整っているか審査

上記で規定した通りの人員が揃っているか審査

実際に規程通りに訓練や実運航ができるか審査

実際にトキエアで考えられるハードル

上記でまとめたように、実際の運航開始には相当の準備が必要であることは感じていただけたと思います。とはいえ実際は、AOC取得前から各種規程策定は進めているはずですので、トキエアにおいても規程は準備されているものと思います。ですので、トキエアで考えられるハードルは以下のようなものが考えられます。

・決めた運航計画(新潟~丘珠を週4日、2往復/日)に必要な充分な人がいるか
・実際に始まった訓練飛行、客室乗務員や空港業務委託先への訓練において規程で定めた通りに飛行訓練、訓練教育や訓練後の審査が出来ているか
・イレギュラーが生じた時に、規程で定めた通りにトキエア自らが、次に問題が起きないように改善していく体制が整っているか
・各職員が規程で定めた通りに、緊急事態での対応などが出来るか

実際に訓練や教育を始めると、想定していなかった問題や規程との乖離、各規程間での矛盾、記載不足などの不備が出てくるはずです。トキエアで訓練開始前に策定した規程は、どれ程乖離や矛盾、不備の少ない「整ったレベル」で準備できているのでしょうか。 その答えは、今後の路線就航までの日数が示してくれることでしょう。

過去の新規就航会社における就航までの日数

では、過去の航空会社ではAOC取得からどの程度の日数で就航日を迎えたのでしょうか。以下にまとめます。

航空会社名AOC申請日AOC認可日AOC申請での
就航予定日
AOC申請→認可
所要日数
就航日AOC認可→就航
所要日数
AOC申請→就航
所要日数
Peach平成23年4月13日平成23年7月7日平成24年3月85日平成24年3月1日238日323日
ジェットスター平成23年12月21日平成24年4月6日平成24年7月107日平成24年7月3日88日195日
エアアジア(初代)平成23年10月27日平成24年2月2日平成24年8月98日平成24年8月1日181日279日
春秋航空日本(申請時)平成25年9月5日平成25年12月17日平成26年5月103日平成26年8月1日227日330日
エアアジア(2代)平成27年7月21日平成27年10月6日平成28年春頃77日平成29年10月29日754日831日
ZIPAIR平成31年3月8日令和1年7月5日令和2年5月14日119日令和2年6月3日334日453日※
トキエア令和4年11月30日令和5年3月31日令和5年6月30日121日
表:LCC各社のAOC申請から就航までの日数経過
※ZIPAIRの就航日が就航予定日を遅れたのは新型コロナウイルス感染拡大による影響(結果として貨物便として運航開始となった)
※バニラエアはエアアジア(初代)の運航基盤を継承しているためこの表からは除外

まずAOC取得までの日数ですが、トキエアが最も日数を要しています。しかしながら特別多くの時間が割かれたというものではありません。やはり、AOC申請時には、AOCが取得できるレベルまで航空局と規程等の調整をした上で申請しているものと考えられます。

次いで、AOC取得から就航までの日数ですが、これは会社によって大きな差があります。最も短いものでジェットスター・ジャパンの88日間です。この最短に並ぶペースで審査を通過できたならば、トキエアの6月30日就航は間に合うということになります。
さらにAOC申請時での就航予定日と実際の就航日は一致している場合が大勢であり、問題が生じない限りトキエアは6月30日に就航する、と見ることは出来ます。

上のようには書きましたが、しかし、それは余りにも楽観的と言わざるを得ません。特に注目したいのは春秋航空日本(当時)とエアアジア・ジャパン(2代)です。この2社の共通点には以下があります。
JALANAと資本や業務提携をしていないこと
・AOC申請時の就航予定日より実際の就航日が遅れていること
JALANAと提携している会社であれば、施設も借りれば済むことが多いですし、何より規程は、極論で言ってしまえば流用してしまえば済んでしまいます。すでに整っていて、かつ実際の運航を問題なく行えている規程ですので、大きな問題は生じません。しかし、全くの独立会社であった上記2社は1から設備や訓練、規程を整えなければなりません。そうなれば、どうしても規程と実際の運航に乖離や矛盾、不備が出てくるものです。実際に、春秋航空日本(当時)は、AOC申請時より遅らせて設定された2014年6月27日の就航予定を「運航体制が整わず、期限までに国土交通省の認可を得られないと判断」した為、2014年8月1日の就航に延期しています(2014年6月6日:日本経済新聞)。エアアジア・ジャパン(2代)はAOC取得後、就航の無期限延期を発表しています(2017年1月30日:日本経済新聞)。
トキエアは、上記2社と同じく独立した航空会社です。その点、2社と同様に審査に時間を要する事態も充分考えられるのです。

まとめ~予定通りの就航かはこれまでの準備次第

トキエアが予定日に就航出来るかどうか、出来ると考えられる見方と難しいと考えられる見方、双方に触れてきました。現状は、どちらの可能性もあるとは思います。初めに触れたように膨大な準備が就航には必要です。それらを完璧に整えて、6月30日にお客様をお乗せするとすれば、トキエアのスタッフは相当な努力をされたものと称賛されることでしょう。あるいは飛ぶまでの苦しみをもう少し長く味わい続けることもあるかもしれません。

結局のところ、AOC取得の準備とは別に、これまでどれだけ綿密に、穴のないように規程等の準備をしてきたか、それによって就航日は決まるのです。やはり稼ぎ頭となる夏季に運航できることは会社経営に大きなメリットとなります。トキエアが無事に飛び立つことを願うばかりです。

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